任意後見制度と死後事務委任契約

任意後見制度とは?

「自分が亡くなった後の手続きは、いったい誰がやってくれるんだろう。」
今後ますますひとり暮らしが増える時代・・・そんな不安をサポートする制度があります。

任意後見制度は、将来、物事を判断する能力が不十分となったときに備えるための制度です。本人の判断能力があるうちに、将来、自らの判断能力が低下した場合における財産管理や介護サービス締結等の療養看護に関する事務について、信頼できる方に依頼し、引き受けてもらう契約を結びます。

この契約を任意後見契約といい、依頼するご本人を委任者、引き受ける方を任意後見受任者(後に、任意後見人)といいます。また任意後見契約は、公正証書により締結しますので、契約書作成のサポートを専門家に依頼するのがよいでしょう。

任意後見制度では、制度を利用するかどうか、任意後見人を誰にするのか、どんなことを依頼するのか等、元気なうちに自分のことを決めることができます。そのため、判断能力低下後も、これまでの生活スタイルを維持できるというメリットがあります。

任意後見制度手続の流れ

任意後見人を決める


任意後見人になるためには資格は必要ありません。家族や親戚、友人、弁護士や司法書士等のほか、法人と契約を結ぶこともできます。また、複数にすることも可能です。

契約内容を決める


任意後見契約で委任することができるのは、財産管理に関する法律行為と介護サービス締結等の療養看護に関する事務や法律行為です。加えて、上記法律行為に関する登記等の申請等も含まれます。たとえば、病歴や身体が動かなくなったら○△施設に入所希望、かかりつけ医は○×病院、墓参りは年○回行きたい等、将来の生活に関する具体的な希望や金額等を記載したライフプランを作成するとよいでしょう。

※任意後見人にペットの世話を頼めるの?
食事を作ったり、ペットの世話をする等の家事手伝いや、身の回りの世話等の介護行為は任意後見契約の対象外です。
これらをお願いしたい場合、別に準委任契約を結び、任意後見契約発効後も終了しない旨を定めておくとよいでしょう。

※任意後見人に死後の葬儀等を頼めるの?
葬儀費用の支払い等、本人の死後事務は、任意後見契約の対象外です。
葬儀等死後事務をお願いしたい場合には、任意後見契約とセットで死後事務委任契約を結んでおくとよいでしょう。

なお、上記以外に、入院・入所・入居時の身元保証、医療行為についての代諾も任意後見契約の対象外となります。

※任意後見人の報酬はどのくらい?
報酬の額、支払方法、支払時期等は、本人と任意後見受任者との間で自由に決めることができます。

法律上、特約のない限り、任意後見人は無報酬となります。そのため、報酬を支払うためには、公正証書に必ず報酬規定を盛り込んでおく必要があります。また、報酬の支払時期は、規定がなければ任意後見事務終了後となりますので、報酬を定期的に支 払うためにはその旨規定に盛り込む必要があります。

報酬は、任意後見人が第三者の場合には、一般的には月5,000円程度から3万円程度が相場です。
なお、任意後見事務を行うに際し必要となった交通費等の経費、本人に代わって支払う医療費や介護サービス利用料等は、本人の財産から支払うことができます。

任意後見契約は「公正証書」で締結する


本人と任意後見受任者の双方が、本人の住居の最寄りの公証役場に赴き、公正証書を作成します。公正証書とは、公証役場の公証人が作成する証書のことです。公正証書によらない任意後見契約は無効となりますので注意しましょう。

「任意後見監督人選任の申立て」をする


本人の判断能力が低下したら、任意後見契約を開始します。本人の住所地の家庭裁判所へ任意後見監督人(任意後見人が適正に仕事をこなしているか監督する人)の選任を申し立てましょう。任意後見監督人が選任され、任意後見監督人の審判が確定すると、任意後見受任者は任意後見人となり、任意後見契約に基づき仕事を始めることになります。

任意後見契約の3つの類型

即効型

任意後見契約を結んですぐに、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申し立てを行い、直ちに任意後見契約を発効させるもの

将来型

本人が判断能力がある時に任意後見契約を結び、その後、本人の判断能力が不十分になった際に家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申し立てを行い、任意後見契約を発効させるもの

移行型

任意後見契約を結んだのと同時に、見守り契約、財務管理委任契約、死後事務委任契約等を結びます。本人の判断能力がある当初は、見守り契約や委任契約によるサポートを行い、本人の判断能力が不十分になった際は任意後見契約によるサポートを行うもの。

任意後見のメリット・デメリット

メリット

  • 本人が後見人の選任や、委任事項を自由に選べる。

  • 見守り契約を併用する事で、判断能力の低下に気づきやすい。

  • 死後事務委託契約も合わせて締結することもできるので、死後事務手続きの代理も可。

デメリット

  • 後見人に取消権がないため、悪徳商法の被害に弱い。(被害予防に役立つも、被害にあってからの後見人の取消しは不可)

  • 正常な判断力が保たれているかどうかの見極めが難しい場合があり、後見開始の必要なタイミングの判断が難しい。(見守り契約で対応可)

  • 判断能力の低下が見られるまで、任意後見人は実働できない。(財産管理委任契約で対応)

見守り契約、財産管理委任契約、死後事務委任契約

任意後見契約は、ご本人の判断能力が低下した後、任意後見人が正式に就任することにより、初めてその効力が発生します。また、ご本人が亡くなられると、任意後見人の代理権は消滅してしまうため、生前、任意後見人だった方でも、葬儀等の事務手続きや相続手続きを代理することはできません。

この「任意後見契約締結から、任意後見人が就任するまで」と「本人が亡くなった後」という、任意後見契約だけでは対応できない部分をサポートするため「見守り契約」、「財産管理契約」、「死後事務委任契約」等の手続きがあります。
実際、任意後見契約を結ぶ方の多くは、任意後見契約を単独ではなく、それぞれのご状況に合わせて、「見守り契約」「財産管理契約」「死後事務委任契約」を組み合わせています。

見守り契約


ご家族などが同居していれば良いですが、ひとり暮らしをしている方、近くに親族がいない方などは、ご本人の判断能力が低下したことを誰も確認できませんので、家庭裁判所への申し立てがされる可能性は極めて低いです。
契約を結んだ後から任意後見契約の効力が発生するまでの間、任意後見人になる予定の方が、ご本人と定期的にコミュニケーションをとり、任意後見契約の効力を発生させるタイミングをチェックしてくれる契約です。

財務管理委任契約


財産管理委任契約は、自分の財産の管理や日常的な預貯金の管理から公共料金の支払い、収入支出の管理、賃貸物件の管理など、その他の生活上の事務の全部または一部について、代理権を与える人を選んで具体的な管理内容を決めて委任するものです。当事者間の合意のみで効力が生じ、内容も自由に定めることができます。
財産管理契約は、精神上の障害による判断能力の減退がない場合でも利用できます。よって、すぐに管理を始めなければならない場合、判断能力が徐々に低下してもその前から管理を継続させたい場合、死後の処理も依頼したい場合に有効な手段といえます。

死後事務委任契約


「死後事務委任契約」は、ご本人が亡くなった後をサポートするための契約です。
任意後見や財産管理契約などは、原則として、ご本人が亡くなると代理権が消滅してしまいます。
代理権が消滅してしまえば、遺体の引取や葬儀に関すること、医療費の精算、施設や賃貸住宅の費用の支払いや退去手続き、その他の諸手続等の事務手続きをすることはできません。
また、死後の事務手続きも大切ですが、葬儀や納骨等の死後の事務手続きに関して、何かしらの希望を持っていたとしても、それを実現してくれる人に予め頼んでおかなければ、それが実現される可能性は低くなります。
死後事務委任契約の中で、死後の手続きに関する希望や誰に何を任せるかを決めておくことで、葬儀・火葬・納骨等のこと、医療費の支払いや、施設の退去手続きのこと等について、自分の望むような形で、死後の手続きを対応してもらうことが可能です。

任意後見契約は、委任者の死亡によって契約が終了してしまう生前生活のサポート制度である為、死亡後の手続きの事を頼んでおくには死後事務委任契約が必要です。

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